津波で甚大な被害を受けた岩手県大槌町、その町の海を見下ろす高台に設けられた白い電話ボックスとその中に置かれた線がつながっていない黒い電話…。個人の方の敷地の中に置かれているこの電話は、この方のご厚意で一般にも開放されているそうです。
突然の災害で亡くなった、あるいは行方不明になってしまった大切な人への想いを“話す”ために人々はここを訪れます。
ご両親と妻、そして1歳のお子さんを同時に失った男性は、「ときどき、なんで生きてるのかわかんなくなっちゃうんだ…。またパパって言って…。ごめん…助けてあげられなくて…本当にごめん」と話しかけていました。でも、家族のことを覚えている自分が生きていることが、家族が生きた証しになる、家族のことは死ぬまで忘れないと言っておられました。
仕事で大船渡に来ていたお父さんが津波で行方不明になってしまった男の子。八戸から一人ではるばるやってきて、すすり泣きながら大好きだったお父さんに語りかけました。「家族は頑張ってるから心配しなくていいよ。父さんは元気?父さんがいなくなって一番悲しんでるのは母さんだよ…。なんで死んだの…」
14歳の女の子・弟2人とお母さんの4人で明るく頑張っているこのご家族。お父さんを含めてお互いのことが本当に大好きなんだなってすごく感じました。お互いのことが大好きで心配ですごく気遣っているから、その日以来、父さんの話をすることができない…。4人で風の電話ボックスに行った時にみんな初めてお父さんへの気持ちを話すことができました。初めて泣くことができました。これからはこの優しいご家族が、お母さんも子どもたちも、心のずっと奥にあるつらい気持ちを話したり、一緒に泣いたりできたらと、心の底から願っています…。